真冬の、空の高いある晴れた日のこと。
真っ昼間から制服姿でそう宣言した私の言葉は、駐在所の警官には「ライオン食べたい」とでも変換されたのだろうか。
だとしたら馬の耳に念仏。犬に論語。兎に祭文。
この世界には不確かな例文ばかりごろごろ転がっているわりに、確信付いた単語の一つもありはしない。
そうでもなければ警官だって、もっとまともな相槌打つでしょう。
「ちょっとさっきから何を言ってるかわからないんだけど」
「おまわりさん耳、悪りーんじゃないですか」
「公務執行妨害で逮捕するよ君」
「幼気なJKの話取り合ってくれないのどっちだよ」
ふんす、と鼻息を出すと警官帽子ってやつのつばの部分を掴んで下から上まで舐めるように顔を近づけられた。真似をして薄目で対抗するのに、思うようにいかず指でもっと目を細める。
「見たところ高校生だよね、学校はどうしたの」
その日今年1番の寒波を観測した東京は、空町(そらまち)。
頭の高い位置でくくったポニーテールにマフラーをぐるぐる巻きにして。駐在所前で仁王立ちする私はクルーソックスを履いているだけで俗に言う生脚なので、冷たい冬の風が吹くたびだからぁ、と地団駄を踏んだ。
こんな長期戦になるんなら120デニールのタイツでも装備するんだった。いきり立ちながらも、もう過ぎたクリスマスのトナカイみたく赤くなった鼻からは非情にも鼻水が垂れてきて、子どものようにぐすっと啜ってみせる始末。
だって、言えばすぐに掛け合ってくれると思ってたんだもん。
誰かがいなくなったら、心優しい駐在員が血相を変えて署の中に導き、暖かいお茶を出して話を熱心に聞きながらすぐに捜索願の手続きをする。
ドラマや映画じゃよくあれど。
現実はそんなに甘くないらしい。