「えー、ゆかリオくんにおっけーもらえたの!?やったじゃん」
「ひーん人生初彼氏だよ〜…」
「赤飯炊こ、赤飯!」
きゃいきゃいはしゃいで手を組み合うクラスメイトを見て、はっと嘲ける。世間を行き交う「真っ当」が眩し過ぎて痛かった。
高校生、ってそれだけできらきら輝いていられるのだと思ってた。窓際、自分の机に突っ伏して見える世界、クラスメイトの大半はきらきら輝いて見えるのにおれはそれが当たり前にすらならない。
ここが奈落だなんて思ってない。ならせめて上りかけて蹴落とされるでもいいから、誰か道連れになってくれ。
そうでもなければここはいまおれにとって
(控えめに言って地獄)
「へきちっ」
「………」
「きみ、気が利くね」
駅前でティッシュ配ってたから。
いらないんで差し上げます、と無言でそのまま突き出したら、隣の席で鼻水垂れ流しにしていた女子高生はさながら金一封を目の前にした悪代官のようにティッシュを抱きしめた。
出会いこそこんな感じだったと思う。ろくすっぽクラスメイトの顔と名前が一致していない春に、花粉に見舞われた多香は女子らしからぬ鼻水噴射っぷりで、そのくせ平気で服の裾で今にも鼻水を拭きかねない女だった。
言うならば親目線だ。そもそもセーラー服ってそんな何枚もあるものじゃないはずなのに鼻水まみれにするって一体どういう了見だ。
「配ってたらもらっちゃうタイプ?」
「何を?」
「ティッシュ。私超もらうんだよ、一度通りすがってまた受け取りに戻るくらいもらう」
「その割にティッシュ切れてんじゃん」
「ティッシュ欠」
「金欠みたいに言うな」
クラスにろくに話の合う同級生がいなかった、多香もまた同じだった。こう言ってはなんだが彼女は高校生活を棒に振るタイプの人間で、目が眩んで逸らしたくなる世界に、そいつは輝くことすらせずに一人でただそこにいた。それが皮切りになったかは知らない。目を凝らさずにいられる多香といると楽で、自分でいられて。波長があったんだと思う。あっちも。
利害関係が一致した二人はすぐ気を許しあって、春が夏になって、秋はあっという間に冬になった。