そのとき、ようやく私は自分の犯した罪の大きさに気付いた。



─────────俺の母親、鬱病でさ


 あのときから日野はずっと私にSOSのサインを送っていたのだ。



─────────何それウケる


 それを背負う覚悟がなくて私は見て見ぬふりをしてしまった。
 こうなってしまう前に防げたのかもしれなかったのに。




 気付いていた。知っていた。日頃交わされる会話の中に日野がそこはかとない虚無を背負っていたこと。わかっていたのに気付かないふりをした。怖かった。今の二人が壊れるんじゃないかって怯えて一歩後ずさった。


 私が突き放したあと寂しそうに笑った、日野の顔が浮かんでは消えていく。




「多香、いくぞ」