「わりかし重度の。父親出てってからどうやら発症してたっぽくて、おれが気付いた時にはもう割と手遅れ。

 一人で鬱ぎ込むんならまだしも、被害妄想って言うの?酷くてさ。夜中に言うんだよ。やれ誰それが来た、やれあいつが襲いに来たとか、誰もいない場所見て怯えてるわけ。もうホラーよ」

「…」

「常人のおれからしたら母さんはいつからかキチガイの部類に当てはまっちゃった。おれはそれを救いたかったけど、でも漫画の主人公みたく上手くいかないのが実情」



 どう、引いた?

 息継ぎ無しのマシンガントークの末、ベンチの背もたれに頭を預ける日野は笑った。だから私もそんな日野を横目に、鼻で笑ってみせた。






「何それウケる」


 そこでふと、突拍子もなく、夢から醒めたような感覚に襲われた。

 いや、正しくは夢を見ているとき、あ、これは夢だな、と気付いてしまうような自覚。


 そして押し寄せる濁流の渦に紛れた、幾重にも重なった後悔。ヒトが歩んできた長年の歴史、その年表の上を積年の恨みが行き交い「戦争」や「一揆」なんて形で衝突したように、駆け巡った想いが錯綜して宇宙の星をも跨いで、数百年ぶりに落下する隕石みたく、私の胸を穿った。

 これは記憶だと悟る。何の前触れもなく訪れた覚りが神さまからのお告げだったとして、せっかく巡ってきたチャンスをもう一度ふいにしてしまった喪失感に絶望して、



 私は目を瞠った。