「てっさんちょっと匿って!」
「んだよめんどくせーのはごめんだぞ」
「違う違う!直して欲しいもんがあって来ました!」
「承る」
「ネジ外れてんだよまじで!大変なの!」
「自転車の?」
「多香の」
「日野てめコラ表出ろ」
いま外出たら見つかる!と叫ぶ日野の頭をぐいぐい掴んで外に出してやる。でもそこは悔しいかな男と女で、力量差で負けて結局散々揉み合った末二人して店前にすっ転ぶ形になった。野良猫の喧嘩みたいに、頭も服もぼろぼろになって肩で呼吸する私たちに、てっさんは呆れた様子で腕を組む。
「お前らさ、嘘でも依頼に来たとか言えよな」
「学生だもん、あってもてっさんより金ないよ」
「商売上がったりだっつー話。生憎こちとら昼間っからお熱いお二人さん相手にしてるほど安かねーんでね」
「日野くんあれ嫉妬?三十半ば越えても恋人出来てないから嫉妬してるのかね」
「結婚間際で逃げられた花屋の店主のことまだ引き摺ってんのかね」
「お前ら死ぬ覚悟は出来てるな」
ひと世代前の殺し屋のようなセミオートのサングラスにチェーンソーを携えるてっさんを前にして、冗談冗談と二人して手を振り回す。
真冬だというのに上のツナギを脱いで剥き出しになるタンクトップと上腕二頭筋にうはうはしていたら隣から日野に叩かれた。
頭にタオル、煙草、タンクトップonツナギそして見える上腕二頭筋。この三拍子のロマンは男のお前にはわかるまい。