「ほんと、大型ディスカウントショップで買ったやつっぽいからパッケージの耐久性とかも期待してなかったしダメ元だったんだけどな、まさかつくとは。おれ、天才」

「うんうん!大統領くらい偉い!」

「そこまで言うと恐縮」


 わははーっ、と両手に2本ずつ手持ち花火を携えてぐるぐる回る私に対し、日野はしゃがみながら地味でちっぽけな手持ち花火をそれは退屈そうに眺めていた。

 白昼堂々、かつ平日の真っ昼間にこんなことをしているのが顰蹙を買ったのか、土手のあちらこちらでは犬を散歩中のおばさんや買い物帰りの主婦さんがこっちを見降ろして何やらひそひそと話し始めている。


「わあ。見ろ日野、我々めちゃくちゃ有名人。なぜ」

「お前が現在進行形で両手に携えてるもん見ろ」

「てかさ、なんで冬場に花火ってだめなん?空気乾燥してるから?乾燥した雑草に引火して火事の元になったら危ないから?」

「はい多香ちゃん大正解。おれたちいま割と反社会派だよわかったら今ついてる両手の花火颯太くんに寄越そうか」

「反社会派!!かっけえ!!」

「ばかばか多香振り回すな!」

「こら───!お前らそこで何やってんだ!!」

「ほら見ろ言わんこっちゃない!!」


 ピー、と甲高いホイッスルの音に加えて駆けて来る空町駐在員の影を見て、その姿に追いつかれる前にやべやべと二人揃って慌てて土手を駆け上がる。

 花火のいくつかはまだ残っていたけれどそれも全部置き去りにして走った。だから振り向いたら楽しかった思い出だけが散らばっているのが見えて、それが名残惜しくて足が縺れる私をはよ来いって日野の大きな手が引っ張った。

 ここで振りほどくのは違うと思ったし、後にも先にもきちんと手を繋いだのはこの時だけだったような気がする。いつも気恥ずかしくてそれすら拒んでしまう手を、この瞬間だけは、振り払わずに、強く握って、手を繋いで走った。


 ❄︎


「よお、お二人さんお揃いで」

 寄ってらっしゃい見てらっしゃい、何か壊れ物があればなんでも安価で直すよ大澤工具店。そんな錆びれた表看板に、お世辞にもマッチしてます、とは言い難いルックスのひとがいる。そのお店の店主でもある、黒髪、ロン毛に作業着姿の大澤鉄人(おおさわてつじ)通称てっさんは、

 年齢不詳のくせして小麦色に焼けた肌に乗った程よい筋肉が乙女心を釘付けにするその典型だ。頭にタオルを巻いて鳶職みたいな見た目が物凄いどストライクなんだけど、今日はそれどころじゃない。