「さんみー」
「鼻の頭赤いよ」
まず冬に温まるにはラーメンだろ。
学校帰り、ゆめ屋に次いで春夏秋冬問わず通いつめた行きつけのラーメン屋がある。空腹時、二人が必ずと言っていいほど口を揃えて候補に挙げる虎飯(とらはん)”は、チャーシューも鳴門もきくらげも麺も、そのどれを取っても最高に美味い。
因みにラーメンの要とも言えるスープは、ちょっと味が濃くて辛い。
入るなり私は豚骨塩バターラーメンを、日野は味噌コーンラーメンを注文して黙々と食した。
二人してスープを飲み干して、げふりとゲップを吐き出すと鼻を垂らした私に、隣から紙ナプキンをあてがわれる。
「さんきゅーです」
「頼むよ仮にも女子」
「日野が女子力高いんだろ」
「乾燥対策にスキンケア超するもんね」
「マジでちょっと引いた」
「と、二組の藤村が言っていた」
「藤村くん女子力たっか」
ねーよな、って笑う口ぶりからして賛同してるようだけれど、お仲間、と肩を並べるには日野の顔は男の割に、女の子みたいに小綺麗すぎて困る。
中学の頃は野球部だったらしい。その割にあまり日に焼けてない肌に(夏場はちょっと焼けるけど)、ほくろや出来物の一つない。お目目はくりくりだし二重で栗色の髪はサラサラだ。でも眉毛だけ見ると男っぽい。思春期の今時分、吹き出物に悩まされる女の子の気持ちがこの男にはどれほどわかるんだろうか。
一体この肌にどんな秘訣が、と食い入るように見入っていたら痛い痛い、と顔面を手で避けられた。食い入るどころか、日野のほっぺたに顔面を食い込ませていたからだ。
ごめん、と笑ってからうーんと腕組みをすると、紙ナプキンで口元を拭った日野が、得意げな顔をした。
「ま、藤村に負けず劣らず美肌だけどな俺は」
「黙れウルツヤ肌」
「認めてんじゃねーか」
憎たらしいいいいい、と手のひらで日野の両頬をサンドしてぐりぐりしてやったら、されるがままの日野が白眼をむいた。
女子も嫉妬するウルツヤ肌の持ち主は新聞配達に夜ふかし不節制偏食好き嫌いその他諸々。肌ズタボロ要素四六時中常備してる癖してティーンエイジャーってそれだけを武器にゴールデンタイムの就寝一つで女子が羨む美肌持ってんだから気に食わない。
私だって負けず劣らず美肌のつもりではある。でも生理前とかはすぐにニキビ出来てしまうし自然の摂理には抗えない。
「日野のおでこに特大のニキビ出来ますように」
「やべー金貯まりそー」