「仕方ないといえば仕方ないのかもしれないけど。
あんまり気にしないほうがいいよ?」

「……そうだね。
ところでさ、理世さんの今度の休み、いつ?
買い物行きたいんだけど、母さんから許可が出なくて……」

無理に笑って話題を変えると、理世さんも乗ってきてくれた。
会話の端々で引っかかったことは、心の中に書き留めておいた。


帰って、パソコンの前に座る。

なんでこんな簡単なことに、いままで気づかなかったんだろう。
莫迦な自分に呆れてしまう。

ネットの検索窓に打ち込んだのは、【不藤秀俊(ひでとし)】の文字。

不藤先生が専門にしていたのは、臓器移植手術。
発表されている論文の中には、多臓器移植についてだってある。

ついでに調べたのが、臓器移植を受けた人の、その後の変化。
やはり、味覚の変化等があることがあるってことだけど。

……だとしたら。
私の身体は。



夕飯後、両親を問いつめてみた。

「琢哉はもしかして、生きてるの?」

「なに莫迦なこと云ってんだ。
琢哉さんは死んだとあれほど」

半ば怒っているいる父に、視線が泳いでいる母。
一度、深呼吸して準備していた言葉を投げつけた。

「琢哉は私の身体の中で生きてるの?」

「な……っ」

一度は立ち上がり、握った拳をぶるぶると振るわせていた父だけれど、すぐに気が抜けたようにソファーに座り込み、あたまを抱えた。

「……どこまで知ってる」

「たぶん、琢哉から臓器移植を受けたってことくらい。
それもひとつじゃなくて」

……はぁーっ。

父の口から落ちる、深いため息。

「これから話すことは他言無用だ。
そういう条件で、俺たちも琢哉さんのご両親も、同意書にサインしたからな。
本来なら、おまえに話すこともできない。
これは、俺の一存で話すことだ」

「……ありがとう、父さん」

父さんが話したことによると。

やはり、目撃談の通り、私の身体は潰れていた。
反対に、琢哉は奇跡的に……というのも変だけど。
あたまが潰れただけだった。
病院に運ばれた、即死だけど身体が無事な琢哉と、かろうじて生きているけど身体がぐちゃぐちゃな私。

不藤医師の下した決断は、琢哉の臓器をそっくり、私に移植すること。

手術自体がうまくいくかも賭、拒否反応だって賭。
さらには倫理や法的手続きなんかも無視して行う手術だから、明るみになれは社会的罪は重い。

説明を受けた両親は当然、迷ったそうだ。

けれど迷えば迷うだけ、それでなくてもゼロに近い成功率がどんどん下がっていく。

半ばやけくそで私の両親も、琢哉の両親も同意書にサインした。