病院にいたときに感じた違和感。
琢哉の両親に対して抱く違和感。

その正体を知りたくて、少しずついろいろ調べていった。
といっても、ネットの海をうろうろ彷徨うだけで、どうしていいのかわからない。

でも、その中で一つだけ引っかかったことがある。

現場にいた、作業員の言葉。

――あの事故でひとり助かったなんて信じられない。
だって、身体が潰れていた。

私の身体。

脊髄損傷で足はもちろん、胸から下の感覚はない。
胸の真ん中から下腹まで広がる、大きな傷跡。
内臓破裂で丸一日かかる大手術だったって聞いている。
損傷が酷く、生命維持に支障のない子宮や卵巣は摘出されたって。

それは確かなことだろう。

でも、本当にそれだけ?

琢哉の幻が見えることを話すと、気のせいだと否定してくる医師。

妙に私、というよりも私の身体を気遣う琢哉の両親。

なにか。
なにかがきっと、隠されている。



「もうすっかり元気だね」

「おかげさまで」

検診に訪れた病院で、お昼休みを利用して入院中、仲良くなった看護師の理世(りぜ)さんと食堂でランチ。
食堂といったって、私のいた別館の食堂は有名レストラン監修だし、なにより人が少ない。

……そう。
私が別館にいた、ってことも違和感。

こっちは難病患者ばかりが入院している。
確かに、怪我の程度から考えると当然なんだけど。
本館にも私ほどじゃなくても近いくらいの患者さんはいるみたいだし。

「不藤(ふどう)先生には驚きだわ。
あんな手術、成功させちゃうんだもん」

「うん。
感謝してる」

アラビアータのペンネをフォーク差し、口に入れる。

事故の前はカルボナーラが大好物だったけど、いまは苦手。
それに変わったのが以前は苦手だったトマト系。

……琢哉が好きだった。

医師には大手術のあとだから、味覚が変わることもある、って云われたけど。

「琢哉さんにも感謝しなきゃだよ?
愛菜さんが生きてるの、彼のおかげだからね」

「……うん」

隣に立つ、理世さんには見えない琢哉をちらり。
聞こえているのか……まあ、聞こえていないんだろうけど、相変わらず笑っている。

「……もしかして琢哉さん、まだ見えてるの?」

「……見えてる」

私の視線に気づいたのか、理世さんが眉をひそめた。