「母さん。
琢哉はどこの病室に入院してるの?
それとも私と違って軽症で、もう退院してるの?」

「その話はもう少ししてからって云ってるでしょ」

母が私から視線を逸らし、声を震わせて話を逸らせる。

意識が戻ってからずっとそう。
事故のこと、詳しく教えてくれない。
琢哉のことだって。

母だけじゃない。
医師や看護師だって私から琢哉のことを隠そうとする。

身体の回復と共に落ち着いてきた私が思いだしたのは。
琢哉とブライダルカウンターに訪れた帰り、事故に巻き込まれたってこと。

通りかかった、建設途中のビル横の道。
突然頭上から落ちてきた複数の鉄骨。

覚えているのはそれだけ。

記憶の最後は、私の名前を叫ぶ琢哉の声、それさえも消し去ってしまう轟音、一瞬の静けさのあと、見ていたであろう女性の、鋭い悲鳴。



それからも、夢現のときにだけ琢哉に会った。

……会った、のかな。
ほんとは夢に見ているだけ、とか。

でも、琢哉の声は確かに私の耳に届いている。
あれは夢じゃないと思うんだけど。



ベッドから出られるようになり、ひとり、車椅子で病院内をうろうろできるようになって私が知ったのは、堪えられない事実だった。

両親は安静にしていなきゃダメだから、って病室にテレビはあったけど、見ることは許可してくれなかった。
事故のことが知りたくて、週刊誌や新聞が欲しいって云ってもダメだって。

動き回れるようになって待合室でテレビや新聞を見たけど、もうずいぶんたっているから全くやっていなかった。
売店の週刊誌だって。

それで私が目を付けたのは図書室。

過去の新聞がないかと思ったんだけど、病院の図書室程度じゃ置いてなくてがっかりした。

……けど。

図書室の片隅にはパソコン。
時間制限はあるけど、使えるって知ってすぐに検索をかけた。

そこで知ったのは……琢哉が、死んだってこと。

【鉄骨落下事故。
死者一名、重体一名】
 
見出しに踊る文字。

死者のところには琢哉の名前。

「……嘘。
嘘よ」

あたまから一気に血の気が引いたせいか、目の前が暗くなる。
血液はまだも下に下がっていき、指先が冷たくなって細かく震え出す。

「嘘。
そんなの、信じない」

真っ暗になった視界、琢哉の声が聞こえた。

――ずっと一緒だよ……。