「ねぇ、東吾?瑠威は禅定の時、刀を前にして祈っていたけれど…あれは何故?」
「あぁ…あれですか。」
急に話題を変えたので、東吾は一瞬面食らった様に、ボクを見た。
「あれは瑠威独自の行法ですよ。あの刀は、神崎家に代々伝わる宝剣で、《緑風》という號(ゴウ)が付いています。当主となる者が、一子相伝の《秘術》と共に受け継ぐ家宝です。事件の後、瑠威が右京さんから賜ったのですが…先代にしてみれば、それがせめてもの償いだったのでしょう。 」
「宝剣か…。ボクのもそうなの?」
床の間に飾られた刀を見て誰にともなく訊ねると、傍らの遥が、にこやかに答えてくれた。
「勿論、あれも《宝剣》だよ。甲本家の伝家の宝刀で、號(ゴウ)は『凰華(オウカ)』。抜き身を見れば解るけれど、刀身に鳳凰が彫られているんだ。」
そうなのか──。
式典で授かった時は、ただ腰に帯びただけで、鞘から抜く事すらなかった。
「抜いてみても良い?」
「お前のものだ。好きに使え。」
一慶に促されて、ボクは立ち上がった。
宝剣を手に取り、柄に手を掛ける。
──重い。
スラリと鯉口から抜き放つと、眩いばかりの刀身が現れる。
「血の匂いがしないだろう?」
一慶が、ボクを見て微笑んだ。
「宝剣は無垢なんだよ。」
「無垢──」
「あぁ。所謂る『試し斬り』をしていない。昔の刀は、罪人の死体を重ねて試し斬りをするだろう?死体が二つ斬れたら、『二つ胴』…三つ斬れたら『三つ胴』という具合に、切れ味の階級を付けるんだ。だが宝剣に奉る刀は、一度も人の血を吸っていない。寧ろ、それが条件なんだ。」
「へぇ…」
「凰華は江戸時代に打ち直されたが、勿論、無垢である事は変わらない。他家の宝剣も同じだ。」
『無垢なるモノ』の象徴…。
それが《宝剣》だと云うのなら、瑠威が惹かれる理由も解る。
誰にも汚されない、強さ。
それは、瑠威が憧れて止まない清浄の証なのだ。
「あぁ…あれですか。」
急に話題を変えたので、東吾は一瞬面食らった様に、ボクを見た。
「あれは瑠威独自の行法ですよ。あの刀は、神崎家に代々伝わる宝剣で、《緑風》という號(ゴウ)が付いています。当主となる者が、一子相伝の《秘術》と共に受け継ぐ家宝です。事件の後、瑠威が右京さんから賜ったのですが…先代にしてみれば、それがせめてもの償いだったのでしょう。 」
「宝剣か…。ボクのもそうなの?」
床の間に飾られた刀を見て誰にともなく訊ねると、傍らの遥が、にこやかに答えてくれた。
「勿論、あれも《宝剣》だよ。甲本家の伝家の宝刀で、號(ゴウ)は『凰華(オウカ)』。抜き身を見れば解るけれど、刀身に鳳凰が彫られているんだ。」
そうなのか──。
式典で授かった時は、ただ腰に帯びただけで、鞘から抜く事すらなかった。
「抜いてみても良い?」
「お前のものだ。好きに使え。」
一慶に促されて、ボクは立ち上がった。
宝剣を手に取り、柄に手を掛ける。
──重い。
スラリと鯉口から抜き放つと、眩いばかりの刀身が現れる。
「血の匂いがしないだろう?」
一慶が、ボクを見て微笑んだ。
「宝剣は無垢なんだよ。」
「無垢──」
「あぁ。所謂る『試し斬り』をしていない。昔の刀は、罪人の死体を重ねて試し斬りをするだろう?死体が二つ斬れたら、『二つ胴』…三つ斬れたら『三つ胴』という具合に、切れ味の階級を付けるんだ。だが宝剣に奉る刀は、一度も人の血を吸っていない。寧ろ、それが条件なんだ。」
「へぇ…」
「凰華は江戸時代に打ち直されたが、勿論、無垢である事は変わらない。他家の宝剣も同じだ。」
『無垢なるモノ』の象徴…。
それが《宝剣》だと云うのなら、瑠威が惹かれる理由も解る。
誰にも汚されない、強さ。
それは、瑠威が憧れて止まない清浄の証なのだ。