信長の依代が梵鐘だった?
では、何故今は《玉》に封じられているのだろう?

ボクは首を傾げたまま、言葉を失くしてしまった。

 天魔の依代や奉納先は、随時、《六星天河抄》に記載するという決まりになっている。その為に、わざわざ文書番(モンジョバン)という役職まで設けているのだ。

《文書番》は、各家に数人配置されていて、天魔の情報以外にも、一座の闘いの記録を書留め、《天河抄》を編纂していくのが主な務めだ。

戦闘データや、申し送り事項を後世に遺す為の、大切な資料を作成している。

 織田信長ほどの大物が、依代を移し換えたというのに、《六星天河抄》に記載が無いのは妙だ。…余程の理由が無い限り、有り得ない事なのである。

「戦争や。」

 宗吉翁が、不意にポツリと呟いた。

「第二次世界大戦で、無敵の筈の大日本帝国に敗戦の色が見えてきた頃…。物資の供給も悪なって、国中の金属製品が次々に取り上げられた。鍋やら釜やら、寺の釣り鐘やら…とにかく、あらゆる金物が回収されて、戦闘機や軍艦を作る材料にされたんや。…それこそ、ちょっとの鉄片でも『お国の為に差し出せ』言いよる。お陰で、日本中の寺から釣り鐘が消えてもうたんや。」

 戦争──第二次世界大戦、か。