「未確認の三体ですが」と、さり気なく話を引き継いだのは、姫宮庸一郎である。

「…天草四郎と淀殿、芦屋道満の依代は、我々《裏一座》が引続き調査中です。」

 《裏一座》──。

ボクからは、特に何も指示を出していなかったけれど…ちゃんと実働していたらしい。

恐らく、おっちゃんの指揮下で動いているのだろう。《裏一座》の活動については、全ておっちゃんに一任してある。

 本来の指揮権は、首座であるボクに在るのだが──如何せん。新生一座の組織作りは、今も混迷を極めていて、とても裏一座の運営までは手が及ばない。

そんな中でも、確(シッカ)り実働していたとは…。
流石だ、おっちゃん。
首座代理の肩書きは伊達じゃない。

 それにしても気になるのは、薬子のあの一言だ。あれは一体、どういう事なのだろうか──?

 ボクが押し黙るのを見て、鷹取が怪訝に顔を傾けた。

「どうしました、首座さま?」

「実は…薬子が最後に教えてくれたんだ、信長公の依代の形を。」

「薬子がですか!?」

「うん。信長の依代は《玉》だって言っていた。」

「玉(ギョク)?」

 不意に、庸一郎が驚愕の声を挙げた。
そのまま眉根をきつく寄り合わせる。

「庸さん、何かあんのかよ?」

烈火が珍しく気を利かせて、庸一郎を促した。

「…うむ。信長公の依代に関しては、明治以降、天河抄にも記載が無いので、以前から個人的に調べていたのだが…」

 庸一郎は考えを纏める様に、慎重な面持ちで語った。

「最後に依代を取り換えた時、信長公の本体は、名古屋近郊の某寺に《梵鐘》の形で封じられたと記録されているんだ。」

「梵鐘って…釣り鐘のこと?」

「そうです、首座さま。薬子の話とは大分食い違いがあるようです。疑う訳じゃありませんが、信長公が現在、《玉》を依代にしているというのなら、天河抄に記載されないまま、何者かに因って、依代が遷(ウツ)し換えられたという事になります。」