第四話∑それぞれの家族

『クソ親父』

吐き捨てる様に
言った白夜さんの顔は
イライラしてるのに苦しそうで
同時に[声]が聴こえた。

《チッ、気味悪いとか
思ってるくせに
電話してくんじゃねぇよ》

成る程、白夜さんの父親も
俺の母親と同じわけか。

《白夜さん、口悪いですよ?》

隣に居るけど
笑い混じりの[声]で言った。

《開いてたんだ……
ごめん、こっちだと
ついつい悪態ついちゃうんだ
朱雀には聴こえてるのにな》

《此処には
白夜さんしかいませんから
閉じる必要ないですからね
でも気持ちは解りますよ
きっと、理解者は
知鶴さんだけですね》

後にも先にも、
俺たちの能力(ちから)を
理解してくれるのは
知鶴さんだけだと思う。

《そうかもな……》

暫く[声]で話してた俺たち。

考えるだけで通じる、
それが俺たちの能力(ちから)

俺の母親も
白夜さんの父親も
気味が悪いと言って
忌み嫌っているが
それは現実を
受け止めるだけの精神を
持ち合わせていないから。

自分の子供が
特殊な能力(ちから)を
持つことに
恐怖心を抱き、罵ることで
自分たちの精神を保っている。

『理解者は
一人居ればいいですね』

『そうだな』

白夜さんと居ると気が楽だ。

閉じたり開いたする
必要がないから精神を
擦り減らさなくていい。

生まれた時から
聴こえる[声]は
煩わしいだけだった。

小さい頃は
閉じるのが苦手で
教師のアレコレ、同級生の悪口、
授業参観に来る保護者のイライラ等
全てが聴こえていた……

そんな話しを隣にいる
白夜さんにしたら、
解るよと同意してくれて
嬉しく思い、同時に
泣きそうになった。

此処に来てから
涙腺が緩んでるなぁ。

『俺も学生時代そうだったよ』

インスタントコーヒーの粉を
カップに入れながら苦笑いして、
その頃の話しをしてくれた。

父親にバレたのは
高校二年の時で
それ以来まともに
話してないらしく、
白夜さんを嫌ってるらしい。

『何でバレたんですか?』

原因は何だったんだろうか?

『母さんと話してるのを
たまたま聴いてたらしい』

お湯を注いで掻き回し、
コンコンと縁でコーヒーを切って
スプーンをシンクに置いた。

知鶴さんに打ち明けたのも
ちょうどその頃で
その時に父親が
聴いてしまった
ということだった。

『朱雀の父親は
何も言わないのか?』

白夜さんの質問は尤もだ。

『うちの父親は知らないんです』

普段、電話でしか話さない
父さんは知らない。

母親も言えないんだろう。

白夜さんの父親同様
気味悪いと思ってる
この能力(ちから)を
口にするのも嫌なんだと思う。

『そうなのか……』

知らないことが
いいことなのか悪いことなのか
能力(ちから)がある
俺たちは当人にはわからない。

『俺は、今こうして
理解してくれる人と
同じ能力(ちから)を
持った人に出会えて
幸福(しあわせ)なんです』

最後に
ありがとうございますと
笑って白夜さんの手を握った。

高校に入る頃に
閉じたり開いたりの加減が
上手くできるようになり、
そのお蔭(かげ)で高校時代は
嫌な思いをしなくて済んだ。

『俺も朱雀と出会えて嬉しいよ』