いま自分が、人にものを頼める立場かどうか、わかっているのだろうか。

「そ、その。
前からここに、猫の親子が住み着いているのは知っていたんです。
でも急に子猫が盛んに鳴くから見にいったら母猫がいなくて。
どこかで交通事故にでも遭ったんじゃないかと探したけど、見つからなくて……」

「それで?」

少しだけ、猫の境遇が可哀想になってきた。
あと、松岡さんの気持ちもちょっとだけわかる。

「うち、ペット禁止だから連れて帰ることもできなくて。
それでここでこっそり、世話をしていたんです。
だから……」

「猫を飼ってほしいってこと?」

「……はい」

首が落ちるようにがくんと松岡さんが頷く。

「わかった。
でもうちじゃ飼えないから、もらい手探そう?
見つかるまではうちで世話していいし」

「ありがとうございます!」

ぱーっと満面の笑みの松岡くんに、……どうしてか心臓が一回、大きくどきんと鼓動した。

ん?
また不整脈かな?
ずっとこの件が気になっていたしな。
心配はなくなったし、今日は早く、寝よ。

三匹の猫を抱いた松岡さん……いや、もう松岡くんでいいや。
松岡くんと隣家を出る。
しばらくは賑やかな生活になりそうだ。