なんて癒やされている場合じゃない!

「別に勤務時間外にあなたが猫と遊んでいようと、どうでもいいんです。
ただ、知られたくないからって、わけもなく私を責めたのを怒っているんです」

「それは……申し訳、ありませんでした」

ハチワレの子猫を抱いたまま、松岡さんが項垂れる。
そういうのはいつもは慇懃無礼な癖に、年下なんだって感じさせた。

「でもいつも、野良猫に餌をやるなと怒る人がいる……ので。
俺はちゃんと、ルールを守ってやっているのに」

〝私〟じゃなく〝俺〟って言う松岡さんは、きっとこれが素なんだろう。

「そうね。
空き家の庭に勝手に入り込んで餌をやるのは、完全にルール違反ね」

「……ハイ。
すみません……」

猫を抱いてがっくりと肩を落とし、俯いてしまった姿は、どうしてかちょっと可愛く見える。
おかげで少しだけ、身近になった。
といっても警戒を一段階、解いてもいいかなってくらいだけど。

「とにかく、ここでもう、猫に餌をやっちゃダメ。
見つけたのが私だったからよかったけど最悪、不法侵入で訴えられても文句言えないんだからね」

「……でも」

「でももへったくれもない!」

びくんと、松岡さんの背中が大きく揺れる。
うるうると腕に抱く子猫と同じ顔で見つめられるとこっちが悪いことをしている気になってくるが、私は間違っていないはずだ。

「……あの」

「なに?」

まだ言い訳があるんだろうか。
不機嫌に睨みつけたら、また松岡さんの背中がびくんと大きく揺れた。

「……その。
……猫を飼って……もらえないでしょうか」

「はぁっ?」