「これで彼氏契約完了ということで」

にやり、右の口端だけを僅かに上げて、松岡くんが笑う。

私の王子様はすぐ近くにいた。
なのに鈍感な私が気づけなかっただけ。

あ、でも。

――執事の格好をした、王子様だけど。




あ、後日譚なんだけど。

蒼海文芸大賞に出したあれ。
一次は突破したものの、二次で落選。

「結局、その程度のものだったんだよ」

いまだに右手薬指は上手く動かないが、執筆は再開した。

「俺は面白かったけどな」

克成がお茶を淹れてくれる。
きっともう、コーヒーは飲めない。