指はやはり、感覚がない。
本当に動くのか心配で、ときどき泣き叫びそうになる。



「ちょっとだけ待ってろな」

私をちゃぶ台の前に座らせ、松岡くんは寝室へ消えていった。
ふと棚の上を見ると、祖母の写真が倒れていた。

「ただいま、おばあちゃん」

いつもと変わらず祖母は笑っているが、心なしか怒っている気がする。
そうだね、安易に王子様だなんて思って、信頼なんてしたから。
おばあちゃんは一発で本物の王子様を見抜いたのに、私には見る目がない。
でもあの日――。

「お待たせしました」

「へ?」

きっと私はいま、間抜けな顔をしているだろう。
だって――松岡くんが執事服を着ていたから。

「本日から私は、紅夏専属の執事です」