「こんなことならあの猫、さっさと殺しておけばよかった。
あーあ、なんか興醒め。
また邪魔が入ったら面倒だし、さっさと殺しちゃお」

祐護さんがナイフを逆手に持ち替え、大きく振りかぶった。
今度こそ死ぬのだと、目を閉じた、が。

――ガンガンガン、ガンガンガン!

「紅夏、無事か!?」

激しく玄関の戸を叩く音ともに聞こえてきたのは――松岡くんの、声。

「くそっ、鍵替わってる!
紅夏、無事か!?
紅夏!!」

がたがたと戸を開けようとする音が響いていたが、しばらくすると静かになった。
祐護さんはナイフを掴んだまま辺りをうかがっている。
れどもう、松岡くんの気配は感じない。

「ほんと、さっさと殺しちゃわないとね」

はぁっと小さく息を吐き、祐護さんが再びナイフを振りかぶった……瞬間。
ゆらり、カーテンに人影が浮かび上がる。