「あ、その前に」

グラスを取ろうとした私を制して、彼はごそごそとなにかを取り出した。

「これ。
受け取ってくれないかな」

小さな箱を私の目の前で開ける。
その中には――指環が、入っていた。

「あの……」

プロポーズ、とかだったら気が早すぎる。
まだ私に、そこまでの覚悟はない。

「あっ、エンゲージリングじゃないから!
……いや、そうなったらいいんだけど。
ただの、ペアリング。
ほら」

祐護さんが右手を見せてくる。
その薬指には同じデザインの指環が嵌まっていた。

「紅夏に僕と、同じ指環をつけてほしい」

じっと、祐護さんが眼鏡の奥から私を見つめている。
その返事がなにを意味するかなんてわかっていた。