「ああ、申し訳ございません。
ここの前のお宅が猫を飼っておりまして。
それがついたのでしょう。
念入りに落としてきたつもりでしたが……申し訳ございませんでした」

なぜか松岡さんは少し早口だったし、眼鏡の奥の目はきょときょとと動いて落ち着きがない。

そんなに動揺するようなことなのかな。
それともやっぱり、執事としては猫の毛がついたままの給仕とか、あるまじきとか思っているのかな。

「いえ、別に」

なんだかそういうところはちょっとだけ可愛く見えて。
少しだけ不安な気持ちが晴れた。



翌日の火曜日は桃谷さんが、暑気払いをしませんかと食事に呼んでくれた。
気分転換に少し早めに街に出て、ぶらぶらする。

……そういえば毎回、ケーキスタンド持ってくるの、大変だよね……。