「いえ、別に。
とにかく、彼以外の方でお願いします」

『かしこまりました、のちほど私がお伺いいたします。
そうですね……十三時頃とかいかがでしょうか』

「はい、それでお願いいたします」

『ではのちほど、お伺いいたします』

電話を切ってほっと息をつく。
とりあえず松岡くんには会わずにすみそうだ。

気の重い用件が済み、今度こそデジタルメモのキーの上に手をのせる。

……早く、これを書いてしまわなきゃ。

深呼吸をしてキーを叩きはじめる。
立川さんがいたら集中できないかも、などという心配は杞憂に終わった。

――ガン、ガン!

玄関から大きな音がしている気がして手を止める。

「立川さん……?」