人影が通るのはいつも、塀の向こう。
私の家と隣家の間には側溝に蓋をしただけの小道があり、隣家はそこに裏口がある。
人が住んでいるなら誰か通ってもおかしくないが昨年、もうお年だった奥さんが亡くなって、おじいさんは介護施設に入った。
隣家はいま、空き家になっている。

きっと買い手がついたのだと思い込もうとした。
が、そんな話は聞いたことがないし、つい先日、建物付きだと売れないから壊してしまおうか、などと相談しているのを聞いたばかりだ。

「こんにちはー」

「あ、はい」

ぐるぐる悩んでいる間に、松岡さんが来ていた。

「あの、その、来るとき、隣の家で誰か見ませんでしたか?」

「お隣ですか?
いえ、どなたも見かけませんでしたが……」

今日も一分の隙もなく執事服を着込み、肩にかけた大きな荷物を床に下ろす。

「どうかいたしましたか」