「待って」

「え?」

立川さんは不服そうだけれど、こればっかりは仕方ない。

「その、あの、私、……キスもまだしたことがない、ので。
それで、その、……初めてのキスは、……あの、……思いっきりロマンチックなのがいいな、……とか」

顔から火が出ているんじゃないかと思うくらい熱い。
言葉は尻すぼみになって消えていった。

「あ、うん。
そうなんだ。
……あ、いや、うすうすそうじゃないかとは思ってたんだけど」

うっ、立川さんに気づかれていた。
でもまあ、書いたものを読めばわからなくもないですよね。

「わかった。
じゃあ、ここならいい?」

ちゅっ、立川さんの唇が触れたのは――私の額、だった。

「は、はい」

「じゃあ、ここへのキスは紅夏が蒼海文芸賞を獲るときまでおあずけ、でいいかな」