……また夜、頑張ろう。

そう誓ってデジタルメモの蓋を開けた。
書きかけの文章を保存して閉じ、新しいファイルを開ける。
それは執事とお嬢様の禁断の恋物語だった。

――執事ものは書かないなどと宣言しておいて。

だって、新作の案を練ろうとするたびに、松岡さんの姿がちらちらと横切っていく。
それにあの、ムカつく慇懃無礼な態度は、ドS執事のモデルにぴったりだ。
生活や仕事に支障をきたしてまで家政夫を雇っているのだから、元は取らないと惜しい。

最初は外の気配に神経を張り巡らせていたはずなのに、次第に設定するのが楽しくてこちらに集中していく。

「失礼します。
買い物に行って参りますが、なにか必要なものなどございますか」

唐突にふすまの向こうから聞こえた声で、肩がびくんと跳ねる。

「あ、郵便出してきてもらえますか」

ふすまを開けると、目の前に松岡さんが立っていた。
思わず後ろへ二歩、後ずさってしまう。