縋るように松岡くんの腕を掴む。
見上げた彼は泣き出しそうに顔を歪めていた。

「紅夏、落ち着け。
あれはセバスチャンじゃない」

「でも、でも」

あたまではわかっているのだ、あれはセバスチャンじゃないって。
だって家を出る前、セバスチャンはミカンを転がして遊んでいたのだから。

「あれはセバスチャンじゃない。
セバスチャンはあそこにいる」

松岡くんが指さす方向を見る。
そこではセバスチャンがのんきに毛繕いをしていた。

「……うん」

一応納得して、手を離す。
でもあたまの中はぐるぐる回るばかりでちっとも落ち着かない。

「ちょっと待ってろ」