いまだに私は、松岡さんに慣れずにいた。

「……はぁーっ。
今日も一日、なんとか乗り切ろう……」

私の口から落ちるため息は、海よりも深い。


いつも通り簡単に化粧をして着替える。
家政夫なんて頼むから、こんな面倒なことをしないといけない。
そもそも家政婦さんで当初の予定通り田辺一美五十二歳だったら、まあ多少は着替えたりはするものの、すっぴんでもよかった気がする。

――キーッ。

「こんにちはー」

自転車の止まる音の後、ガラガラと玄関が開いて松岡さんが顔を出す。

「本日もよろしくお願いいたします」

靴を揃えて上がってくる彼はやはり、執事服姿だった。
この真夏にジャケットまで羽織っているし、さらにはママチャリ通勤だ。
絶対暑いに違いないとは思うけれど、いつも彼は汗ひとつかいていない。