「は、はい」

契約書を広げ、松岡さんは説明しているが、いまいちあたまに入ってこない。
ただただ、言われるがままにサインして印鑑をついた。

「はい、確かにちょうだいいたしました」

書類を確認し、彼は封筒の中にしまった。
それを脇に置き、あらためて座り直す。

「これから末永くお願いいたします、ご主人様」

右手が取られ、なにをするのかと見ていると……ちゅっと手の甲に口づけを落とされた。

「な、な、な」

「なにって忠誠の証でございますが?
また明明後日、参ります。
では、本日はこれにて失礼させていただきます」

少ししてガラガラぴしゃっと玄関が開いてしまった音がして、我に返る。

……あ、あ、あの男、あろうことか私の手に、キ、キスなんてー!

熱でもあるんじゃないかってくらい身体が熱い。
実際、目に映る手は真っ赤になっている。
半ば脅される形で契約したのを猛烈に後悔した。

……いまならクーリングオフできるんじゃない?

携帯に伸ばしかけた手が止まる。

なぜなら。

――さっきの、手の甲へのキスを思いだしたから。

途端にボッとまた、顔が火を噴く。

「あー、もー、家政婦なんて頼むんじゃなかったー!」