――これが書き上がらなければ松岡くんから許してもらえない。

半ば強迫観念で、ひたすらキーを叩いていた。

「紅夏」

松岡くんの、声がする。

「……こんなになるまで仕事することねーだろ」

ゆらり、身体が揺れる。
すぐ傍でお日様みたいな匂いがして、すりっと頬を擦り寄せた。

「……松岡くん……」

彼がいま、こんなに私に優しくしてくれるはずがないのだ。
だからこれは私が見ている、都合のいい夢だとわかっている。
わかっているから悲しい。

「泣くことねーだろ。
……って泣かせてるのは俺だけど」

身体の揺れが止まり、今度はゆっくり、ゆっくりと手があたまを撫でる。

「ヤキモチだってわかってるんだ。
あんな顔を見せるのは俺だけだって思ってたのに、ほかの奴にもしてるしさ。
二股とか疑いたくなるだろ」