みるみるうちに視界が滲んでいく。
慌てて鼻を啜ったものの、それだけでは治まりそうにない。
ずびずび鼻を啜りながら食べている私に彼はなにも言わない。
それでさらに、盛大に鼻を啜ることになった。


「それでは本日はこれで失礼させていただきます」

恒例になっていた頬へのキスはない。

「あのね、松岡くん……」

私の声など無視し、すぐにぴしゃっと玄関を閉めて松岡くんは帰ってしまった。

「少しくらい、説明させてよ……」

さっき必死に我慢したせいか、涙がぼろぼろ落ちてくる。
その場で膝を抱えて泣いた。
そんな私の周りをセバスチャンが心配そうにぐるぐる回っていた。



次に松岡くんがやってくる金曜日まで、ひたすら執筆に没頭した。
少しでも考えると、悲しくなるから。
睡眠も、食事すら取らずにひたすらキーを叩き続ける。