低い低い松岡くんの声がテーブルの上を這っていき、横井さんを捕らえる。
実際、彼はさっきまでの横柄な態度が嘘のように固まっていた。

「紅夏は本当に苦しんでいるんです。
なのにあなたはそのようなことを?」

「す、すみません!」

松岡くんが眼鏡の奥から切れそうなほど鋭い視線を向け、横井さんは悲鳴のような返事をした。

「それに有名税だろうがなんだろうが、人にこんな卑劣なことをしていいはずがありません。
ましてや、匿名などと」

「は、はいっ!」

横井さんは完全に、自分の子供ほど年が離れた松岡くんに怯えていた。


「それでは、よろしくお願いします」

「は、はいっ!
こちらこそ、失礼いたしました!」

松岡くんへ横井さんが勢いよくあたまを下げる。