私の目なんか見ずに、彼はは流しに立って洗い物をはじめた。

嗚咽を押し殺し、時折、すん、すんと私が鼻を啜っても松岡くんはなにも言わない。

「時間になりましたので、帰らせていただきます」

コートを羽織り帰り支度をして一度、松岡くんは私の元へと戻ってきた。

「ああ、あなたにそのような相手がいるのであれば、仮彼氏契約はこれで解消ということでよろしいですね。
それでは次回、来週の月曜日に参ります。
では」

私を置いてけぼりでガラガラぴしゃっと玄関が開いて閉まった音がした。

「なにが悪かったんだろう……」

恋愛偏差値ゼロの私には、こんな高等問題、解けない。
いや、私が難しいと思っているだけで、実際には簡単なのかもしれないけれど。

「どうしていいのか、わかんない……」

ひとりになって、抑えていた声が漏れる。
泣きじゃくる私を心配してか、セバスチャンが周りをぐるぐる回っていた。