「……確かに」

家で鍋なんていつ以来だろう?
少なくともこの家でひとり暮らしをはじめてからはない。
当然、この家にはカセットコンロも土鍋もない。
今日の大荷物の理由を、はじめて理解した。

「……ありがとう」

なんだかまともに松岡くんの顔見られなくて、俯いて袖を引く。

「別に、紅夏のためとかじゃねーし。
俺も食いたかっただけだから」

少しだけ、松岡くん早口になっている。
顔を上げると真っ赤になっている耳が見えた。
いつもの俺様と、そういう可愛いところのギャップがやっぱり好きだな。

……なんて考えて、慌てて否定した。

いやいやいや、好きとかそんな。
うん、これは恋愛感情じゃない方の好きだから。

てきぱきと鍋奉行よろしく松岡くんは土鍋に具材を入れていく。
今日のお鍋は昆布だしで、たれにつけて食べていくスタイル。
たれも手作りでポン酢とごまだれの二種類を用意してくれた。