その日は、立川さんと会っていた。

「この辺り、もうちょっと主人公の気持ちを詰めた方がいいと思うんですよね。
……って大藤先生、僕の話聞いています?」

「あっ、はい!」

怪訝そうな立川さんの声で現実に戻った。

「はい、聞いてます」

笑ってごまかしながら、ヤバかったと内心冷や汗をかく。
まさか、やっぱり理想の王子様だわーなんて、うっとりと見ていたなどと言えない。

「主人公の気持ち、ですよね。
そこが一番大事なのはわかっているんですが……」

目の前のプロットにはびっしりと赤字で書き込みがしてある。
いままでだってすんなりプロットが通るのは稀だったが、ここまで苦戦しているのははじめてだ。
別ジャンルだから勝手が違うんだとわかっているものの、自分の才能は所詮その程度なんじゃないかと落ち込んだ。

「そう落ち込まないでください。
だんだんよくなってきているのは間違いないんですから」