はぁっ、松岡くんが小さくため息を落とす。

「わかった。
じゃあ仮彼氏とかどうだ?」

「仮……彼氏?」

「紅夏は疑似恋愛がしてみたいんだろ?
なら本当に付き合う必要はない。
だから仮の彼氏で仮彼氏」

ちょっとまて。
さっきから紅夏、紅夏ってなれなれしくないかい?
でもそれなら、好きでもない男と付き合う抵抗が薄い気がする。

「それでいい」

「了解。
細かい決まりはまたあとで決めるとして」

また跪いた途端に松岡くんのまとう空気が変わる。

「それでは。
契約の口付けでございます」

右手を取ってその甲に恭しく口付けを落とし、松岡くんは右の口端をちょこっとだけ上げて笑った。