少年は男のもの言いに腹がたってしかたがなかった。

 少年は父親はただ出て行ったんだと認識していた。自分勝手に無責任に。だが「捨てられた」とは思っていなかった。男は少年に思い知らせた。父も母も「出て行った」のではなく、自分を「捨てた」のだ。

 くそ。くそ。くそ。

「いやあ、わるかったな」と男は少年の頭をなでた。少年は男の手をふりほどくとキッとにらみつけた。

「だからわるかったって。ところで、ボウズ。おまえどこか出かけるのか」
「どこだっていいだろ」
「敬語つかえ、敬語。ふん、まあいいや。それでそんなイカした格好してんだな」

 男は立ち上がった。笑みが消えていた。

「そこになにがはいってんだ」

 男は少年の背中においてあるボストンバッグを指さした。少年は動揺して「なんでもありません。着替えとかです」とうわずった声でこたえた。

「おまえ、いまからおやじのところにいくんだろ」

 男が近づいたので少年はボストンバッグを抱えた。

「ちょっとかしてみろ」