少年の言葉に女は安心した。男がいないのに息子だけ面倒をみるのは嫌だったし、だからといって施設に預けに行くのも少年を見捨てるみたいで心苦しかった。女は財布から一万円札を二枚出し「交通費くらいにはなるかな」と少年にわたした。

 女はようやくハンバーグに手をつけた。

「なんにもおいてかないなんてね」

 そう言って顔をあげると少年が銃を女に向けていた。

「もっとだせよ」とうわずった声ですごんだ。

 女は一瞬たじろいだが、悲しい顔をして「そうね」と財布ごと少年にわたした。

「おもちゃでもそんなものひとにむけちゃだめよ」

 出ていくまで、少年は銃口をむけたままだった。

 女は全く抵抗していないのに、ホンモノだぞ。ホンモノなんだぞ。親父がおいてったんだ。親父はホンモノだって言ってた。そう叫び続けた。

 女は総菜のプラスチックのパックを冷蔵庫に入れ「あとで温めて食べなさいよ」と優しく言った。

「じゃあ、さようなら」

 女は出て行った。