父は銃以外なにも置いていかなかった。家中探したが金はなかった。

 四日目の夜、スナックの女がやってきた。

 女はテーブルにデパートの地下で買った総菜が皿にものせずに並べた。腹が減っていたので、少年はいただきますも言わずにかぶりついたが、女はなかなか箸がすすまなかった。

 ふたりは黙ったまま食卓を囲んだ。テレビは野球中継で、ホームランバッターがチャンスでゲッツーになった。

「だめだな、ことしは」
「おとうさん、もう帰ってこないんだよ」と女はようやく絞り出すような声をだした。

 少年はその一言で父から連絡があったのだと思った。

 少年は女の言葉を無視して、野球を見続けた。鶏のから揚げをほおばりながら、いけ、とか、ああ、とか、一喜一憂してみせた。

「これからどうするの」女はきいた。

 エースが打ち込まれ、ランナーがふたり生還した。

「母のところに行こうかと思っています」と少年はうそをついた。