もう帰ってくることはないと確信はしていたが、それでも少年はしばらく父を待つことにした。ときどき食事を作ってくれるスナックの女がそう言った。

「なんでも三日は待たなくっちゃ」

 母がいなくなったあと、父は数人に女とつきあった。

 どの女も少年に「母親になってあげようか」と言った。父も少年もその気になりかけたことがあった。だが父は、酒で酔った勢いで殴ったり、女の財布から金をすくねたり、どうでもいい別の女と浮気をしたりして、最後にはいつも台無しにしてしまっていた。

 なぜそんなことをするのか少年にはわからなかった。父の飲み友達が「未練なんだよ」と笑いながら教えてくれた。

「おまえの顔をみていると、あいつをおもいだすらしいぜ」

 父はまたいろんなことを台無しにしようとしているのだろうか。それともここから逃げ出して未練を断ち切ろうとしたのだろうか。