この世界は檻だ。

螺旋樹の階段を包む檻

僕は、その檻を独り歩く、歩く

この世界は、自由だ。

誰だ、そんな戯言を言うやつは、

生きるも死ぬも己次第?

そんな訳ないだろッ!

法治国家の人間は、
自らの生殺与奪権を持たない。

何故ならば、自殺をすると

社会に蔓延る鼠共が、

残された者を貪るからだ。

それは、呪いでしか無い。

僕は、幸福に生きてはいないが、

誰かを不幸にする権利は無い。

僕は、善人に憧れているのに、
善人にはなれない

己の不利益が多すぎるッ!

檻の外の人々は、僕を見て嗤う。

痩せ細り、口を開け、俯いて
独り涙を流す僕を
淡々と指を指して
嗤う嗤う。

それに、追い打ちを掛けるように、
身を裂く冷気が
僕を襲う

嫌だ 嫌だ 嫌だ(渇く 渇く 渇く)

誰かに話を聞いて欲しくて
この悲しみをわかって欲しくて
ただ、暖めて欲しくて
手を伸ばしても

凍って砕ける右手が痛い。

嫌だ、嫌だ、嫌だ、
この青さが、拙さが、

嫌だ、嫌だ、嫌だ
言葉の通じぬ怪物共がッ!

耳を閉じず、
目を開き、
こちらを見ている奴らは

言葉が、意思が通じないッ!

なのに、押し付けられる
道徳、倫理、社会的慣習の何もかもが
僕を嬲る(拷問器具)

誰か、僕を助けて...

教室の窓から瞼に刺さる茜色が僕の安寧を溶かす。

「もう、こんな時間か」

僕の、名前は森 (カルマ)、高校生だ。
普段は、こうして無意味に人を襲う最悪の怪物共の喧騒を教室で放課後を過ごし耐えている。

こんな、状態なのは、僕に社交性が無いことと、見た目がみすぼらしいからだろう僕の家は裕福では無いが、貧乏でも無い。

なのに、僕はこの有様だ。

理由は簡単、家族に愛されていないんだ。

僕の母親は娼婦の様に、男を取っかえ引っ変えして、金を貢がせるが、子供は、貢物の中で最悪の部類に入る様で受け入れ拒否された。だが、捨てる訳にもいかないので、僕は、最低限生きられる程度に育てられた。父さんは、僕を作らせるだけ作らせて消えたので顔も知らない。

そんな状態で、今まで18年間耐えてきたが、辛うじて、生きていけるのは今年で最後だろう。僕は、幼い頃から教育は高校迄だと言われて育ち、勉強も禄にせず、かと言って、他にやることも無いので、毎日、図書館で本を読んで過ごしていた。

本を読むと、残酷な現実を忘れられる。その影響で、学校の勉強の知識は無いが、本で得た、物理や、化学、生物、歴史、哲学、宗教、政治etc.etc.の知識は大いにある。もはや、学者レベルと勝手に思い込んでいる。

だが、それも最早、無意味だ。
僕は、今日死ぬ。

そう決めたんだ。

元々、生きてて楽しいと思った事など一度も無い。

生まれたから、仕方なく生きていた。

だから、もう、
この腐食する生き方の幻想を解いてくれ

僕は、そう言って三階にある教室の窓から頭から落ちた。

ゴキッと鈍い音がして、僕の体を爽快な脱力感が襲った。

ああ、これで楽になれる...


これで、終わりのはずだったのに、

目を覚ますと、僕は、薄暗い洞窟のような場所で樹になっていた。

周りには、僕と同じような樹が幾千、幾万と生い茂りシミョラクラ現象か、皆、嘆く人の顔が模様として浮かび上がっている。

「ここは、どこだ?
僕は、どうなったんだ?」

僕が、辺りを見渡そうとするが、僕の顔も模様なので、首を捻って視点を動かす事が出来ない。

僕が、諦めてボーっと辺りを眺めていると突然、周りの樹達が叫び出した。

「うわーッ!
やめてくれッ!」

何事かと思っていたら、後ろから、犬に追われた裸の男達が走って来た。

「あはははっ!
なんだあれは、マヌケすぎるッ!」

僕が、退屈しのぎにそれを眺めていると男達は、会話しだした。

「はあ、はあ、
なんで俺たち追いかけられているんだ?」

男が隣の男に話しかけると

「何でも、男色者に与える罰だそうだぞ」

隣の男がそう応える。

「はあ?
でも、俺はそんな経験無いぞ!」

男が、文句を言うと

「でも、お前も好きなんだろ?
男の娘」

隣の男が少し、微笑んでそう言うと

「ああ、大好きだよッ!」

そう言って、男達は顔を見合わせ同時に

「「全ては、佃煮のりお先生のせいだッ!」」

と叫んだ。

あまりにも、面白くてそのまま見ていると男達が、僕の前まで走ってきて僕の体の枝をへし折って走り去って行った。

「ぎゃあああああッ!」

痛い、めちゃくちゃ痛い骨折の比じゃない。

僕が、苦痛に悶えていると

「やっと目覚めたか」

誰かが、僕に近づき話しかけてきた。

僕は、あまりの激痛に耐えていたため、それを無視した。

「おい、聞いているのか?」

僕は、またそれを無視した。

「人の話を聞かんか!」

そう言って、そいつは僕の枝をへし折った。

「ぎゃああああああああッ!
なんて事しやがる!」

僕は、そいつを睨みつけた。

「まったく
君は、相変わらずだな」

そいつは、古い友人に言う様に僕にそう言った。

「誰だ?
知り合いだっけ?」

「ああ、君は夢を見せるといつも、記憶が混濁するなまあ、良い
直ぐに思い出すさ
私は、君達の神だよ
起きて直ぐで悪いが、君には、これから煉獄に言って貰う」

僕の問いかけに神がそう応えると

「煉獄?
じゃあ、最終的には天国に?」

「ああ、やることをやったらな」

「やること?」

「ああ、君には煉獄で君と同じような境遇の自殺者を五人殺してもらう」

神は、そう言って少しニヤついた。

「はははっ
そりゃあ、楽しそうだな
僕みたいなガリガリのガキが五人も人を殺す?無理に決まってるだろ!」

僕が、そう抗議すると

「それならば、問題は無い
というか君が忘れているだけで私は、既に説明をしているんだがな」

「それだよ
僕は、何故記憶が混濁しているんだ?
煉獄の事より先にそっちを知りたい」

僕が、そう言うと

「それは、君が自殺した事への罰だよ
君達自殺者には、死後、樹となって男色者に枝を折られる罰を受ける筈なのだが、最近の男色者は...
何というか...
面白いだろう?
あれでは、罰にならん
そこで、君たちは死後に、自分が死んだ時に
近い状況で毎回別々の自殺をする夢を見るという
罰を与えている」

神が、そう言うと

「いやいや、
枝を折られるのメチャクチャ痛かったんだけど!?」

僕の、意見を無視し神が話を続ける。

「もう良いだろう
取り敢えず、君には全て話した
要望通りの能力を用意してある
本当に特別だぞ?
さあ、もう行け」

神が、そう言うと
何やら、詠唱を始めた。

「生と死を司る神 <モルス>の名において
貴様らに、一条の光を与えよう
君達の苦悩()は、君達の手で贖え
それが、私から送る唯一の愛だ
君達は、終焉を迎える喜びに咽び泣く事になるだろう
さあ、行けッ!
貴様ら、亡者に救済(終わり)あれッ!」

神が、そう言うと
僕の足元に(樹なので足はないが)魔法陣が現れ、輝きだし、僕の姿をその場から消した。