その日から私は、とにかく何事も全力で取り組むようにした。
クラスで毎日藤倉君に会えることが、私の背中を強く押してくれた。
彼のタイプである『小柄』、これはもうどうすることもできないけれど、せめて『優秀』になれるように、そして雰囲気だけでも可愛くなれるように。
だから、みんなが読んでいるようなお洒落なファッション雑誌も買った。眼鏡をコンタクトにした。美容院でショートも似合うと言われれば、長年女の子らしくと伸ばした髪も、思い切ってボブまでカットした。『こけし』なんて呼ばれていたのだ。似合ってなかったに違いないのだから。
そしていつだったか、クラスでこっそり回し読みされていた、『男の子が思わず気になっちゃう女の子の仕種』これが巻末についていた雑誌だって、恥を忍んで買った。勿論家でこっそり読んだのだけれど。
少女なのに真珠の首飾りが似合う、そんな素敵な女の子になるんだ、そうやって自分を磨いた。
変わった私は、戻る前とは別人のようになったと思う。友人もできた。
そしてその中には、琴平美雨さん、彼女もまたいる。
彼女は近くで見ると本当に可愛かった。
吹き出物一つない白い陶器のような肌。お化粧は最低限しかしていないと思われるのに、形の良い眉の下の瞳は、ぱっちりアーモンド形の二重。アイプチでなんとか二重にと、毎朝必死に鏡の前で格闘する私とは大違い。小ぶりな鼻が可愛らしいのに、唇は少しぽってりとした、綺麗なピンク色。女の子の誰もが憧れる、そんな容姿だった。勿論勉強もできたし、噂の通り性格も優しくてよく気が付く、まさに理想の女の子。
彼女のことをよく知って、改めて藤倉君が好きになったのが頷けた。
だけどそう思うと同時に、私の眼前には、抱き合っていた二人が苦い気持ちを引き連れて、鮮やかに再生されるのだった。
二人はいったい、いつから付き合っていたのだろうか?
入学して間もない今、見たところ中学時代からの知り合いではなさそうだ。ということは、恐らくまだ付き合ってはいない。それならばきっと、間に合うはず。
だから私はもう一つだけ、彼に近付く決意をした。クラス委員になる、という決意を。
戻る前、A組のクラス委員は、藤倉君と、そして琴平さんだったのだ。
委員決めの日のホームルームの時間は、クラス委員を最初に決め、そして決まったそのクラス委員が、早速最初の仕事としてその他の委員決めの司会進行をしてもらうことにする、そう担任に切り出されて始まった。
けど、A組の担任である武本先生は、バスケ部の顧問。それが幸か不幸か、男子のクラス委員は先生の鶴の一声で、開始早々藤倉君に決まってしまった。気心が知れているから雑用を押し付けやすいと言って、みんなの笑いを誘っていた。
藤倉君はパワハラだと多少難色を示しながらも、元来のお人好しな性格のせいか、最終的には渋々だけど承諾していた。
残るは女子。するとあちこちで囁かれる、男子が藤倉君なら私やっても良いかも、という声。
そして、琴平さんを推す声も中から聞こえてきた。
「美雨、やんなよ! 中学ん時もやってたんだし!」
それが、琴平さんの藤倉君への恋心を知ってのものだったのかは分からなかったけど、琴平さんにはこのクラスに同中の友人がいて、きっと戻る前もその子は、二人がくっつくように応援したのだろうということは分かった。
だから私は、勇気を振り絞って手を挙げた。
――立候補。
なっても良いと思う子は大勢いたみたいだけど、実際に手を挙げる子はまだいなかった。
このクラスに、私の恋心を知る人はいない。それに、誰かに助けてもらうんじゃない。自分が頑張るって決めたんだから。
私の手は、多分震えていたと思う。藤倉君の方は、反応が怖くて見られなかった。いや、藤倉君だけじゃない、引っ込み思案な性格がまだ抜けきらない私は、クラス中の反応が怖くて、俯いて手を挙げた。
A組には、私と藤倉君しか同じ中学の出身者はいない。変わる前の私なら到底有り得ない行為だけど、今の私なら立候補しても大して不自然ではない、皆がそう思ってくれることを祈った。
クラスで毎日藤倉君に会えることが、私の背中を強く押してくれた。
彼のタイプである『小柄』、これはもうどうすることもできないけれど、せめて『優秀』になれるように、そして雰囲気だけでも可愛くなれるように。
だから、みんなが読んでいるようなお洒落なファッション雑誌も買った。眼鏡をコンタクトにした。美容院でショートも似合うと言われれば、長年女の子らしくと伸ばした髪も、思い切ってボブまでカットした。『こけし』なんて呼ばれていたのだ。似合ってなかったに違いないのだから。
そしていつだったか、クラスでこっそり回し読みされていた、『男の子が思わず気になっちゃう女の子の仕種』これが巻末についていた雑誌だって、恥を忍んで買った。勿論家でこっそり読んだのだけれど。
少女なのに真珠の首飾りが似合う、そんな素敵な女の子になるんだ、そうやって自分を磨いた。
変わった私は、戻る前とは別人のようになったと思う。友人もできた。
そしてその中には、琴平美雨さん、彼女もまたいる。
彼女は近くで見ると本当に可愛かった。
吹き出物一つない白い陶器のような肌。お化粧は最低限しかしていないと思われるのに、形の良い眉の下の瞳は、ぱっちりアーモンド形の二重。アイプチでなんとか二重にと、毎朝必死に鏡の前で格闘する私とは大違い。小ぶりな鼻が可愛らしいのに、唇は少しぽってりとした、綺麗なピンク色。女の子の誰もが憧れる、そんな容姿だった。勿論勉強もできたし、噂の通り性格も優しくてよく気が付く、まさに理想の女の子。
彼女のことをよく知って、改めて藤倉君が好きになったのが頷けた。
だけどそう思うと同時に、私の眼前には、抱き合っていた二人が苦い気持ちを引き連れて、鮮やかに再生されるのだった。
二人はいったい、いつから付き合っていたのだろうか?
入学して間もない今、見たところ中学時代からの知り合いではなさそうだ。ということは、恐らくまだ付き合ってはいない。それならばきっと、間に合うはず。
だから私はもう一つだけ、彼に近付く決意をした。クラス委員になる、という決意を。
戻る前、A組のクラス委員は、藤倉君と、そして琴平さんだったのだ。
委員決めの日のホームルームの時間は、クラス委員を最初に決め、そして決まったそのクラス委員が、早速最初の仕事としてその他の委員決めの司会進行をしてもらうことにする、そう担任に切り出されて始まった。
けど、A組の担任である武本先生は、バスケ部の顧問。それが幸か不幸か、男子のクラス委員は先生の鶴の一声で、開始早々藤倉君に決まってしまった。気心が知れているから雑用を押し付けやすいと言って、みんなの笑いを誘っていた。
藤倉君はパワハラだと多少難色を示しながらも、元来のお人好しな性格のせいか、最終的には渋々だけど承諾していた。
残るは女子。するとあちこちで囁かれる、男子が藤倉君なら私やっても良いかも、という声。
そして、琴平さんを推す声も中から聞こえてきた。
「美雨、やんなよ! 中学ん時もやってたんだし!」
それが、琴平さんの藤倉君への恋心を知ってのものだったのかは分からなかったけど、琴平さんにはこのクラスに同中の友人がいて、きっと戻る前もその子は、二人がくっつくように応援したのだろうということは分かった。
だから私は、勇気を振り絞って手を挙げた。
――立候補。
なっても良いと思う子は大勢いたみたいだけど、実際に手を挙げる子はまだいなかった。
このクラスに、私の恋心を知る人はいない。それに、誰かに助けてもらうんじゃない。自分が頑張るって決めたんだから。
私の手は、多分震えていたと思う。藤倉君の方は、反応が怖くて見られなかった。いや、藤倉君だけじゃない、引っ込み思案な性格がまだ抜けきらない私は、クラス中の反応が怖くて、俯いて手を挙げた。
A組には、私と藤倉君しか同じ中学の出身者はいない。変わる前の私なら到底有り得ない行為だけど、今の私なら立候補しても大して不自然ではない、皆がそう思ってくれることを祈った。