「トイラ、私生きてる。あなたが救ってくれたのよ。ありがとう」

 もう何も心配することはない。

 喜び勇んでユキがトイラに近づこうとすると、トイラはまた後ろへ下がった。

 その目つきは野獣のごとく、人としての心を持っていない。

「お前は誰だ」

 耳をふさぎたくなるその言葉はユキを打ちのめす。

 嫌な予感がしてならない。

「森の守り駒はいないのか」

 トイラが威厳ある声で指令をするように吼えた。

「トイラ、どうしたんだ。何があったんだ」

 キースが眉間に皺を寄せ、心配して覗き込む。

「お前は、狼だな。名は何と申す?」

 キースは電流が流れたごとくはっとした。

 条件反射のようにトイラの前に跪いた。

「私はキースと申します。森の守り主」

 キースが言った言葉はユキの骨の髄まで衝撃をもたらした。

「トイラが森の守り主……」

 思わず呟かずにはいられなかった。

「そっちに居るのは、コウモリか。お前の名は何と申す」

 トイラはジークに鋭い目を向けた。

 ジークもその状況をすぐに飲み込み、さっと跪いた。

「はい、私はジークと申します。森の守り主」

「そうか、キースとジークか。お前達二人は森と私に忠誠を誓うと約束できるか」

「はい」

 キースもジークもしっかり返事を返す。

 もう状況はすっかり飲み込んでいた。

 ユキも仁もその光景をみて圧倒される。