「日本語はペラペラの癖に、そういうことは知らなかったの?」

 ユキはふたりが脱ぎ捨てた靴を調えながら呆れていた。

 そんな事もおかまいなしに、トイラとキースは体を低く構えて鼻をひくひくと動かし警戒していた。

 日本の習慣になれてないとはいえ、ふたりの行動は奇妙に思えた。

 それを尻目に、ユキは家の中を案内する。

 まず、手前にあった部屋の戸を引くと、和室が顔を覗かした。
 床の間には掛け軸がかけられている。

「ここが和室。日本らしいでしょ」

 ユキがふたりに入れと促すとふたりは鼻で深く息を吸い込んだ。

「森の匂いに似ている」

 トイラが小さく呟いた。

「これは畳の匂い。い草っていう植物で作ったマットよ。青々しい香り、気に入った?」

「ああ」

 トイラは素直に答えていた。

「それでこっちがね……」

 成り行きながら、ユキはこの調子で家の中を案内し、それが終わるとふたりを居間のソファーに座らせた。