トイラに近づいたとき、好きと思うより、ユキに勝ったという優越感をミカは抱いていた。

 だから、トイラが突然、手のひらを返して冷たくなったことは、ミカにはショックよりも馬鹿にされた悔しさの方が大きく、到底許せるものではなかった。

 そのミカのトイラに対して復讐心を持つ気持ちが、太陽の玉に映し出され、ジークが探していたトイラを陥れるための都合のいい素材となる。

 人通りの多い駅前を、ミカは歩いていた。

 学校の帰りに直接英会話教室に行ったのか、まだ制服を着たままだった。

 ジークはミカの姿を、ずっと空からコウモリの姿で追っては、チャンスを伺っていた。

 人通りがなくなった住宅街の道、やっといいタイミングになったと、ジークは猛スピードでミカに近づいていった。

 スーッとミカの側を飛んだかと思うと、ぱっと人の姿になり、ミカの前に立ちはだかった。

 ミカの心臓は急に高鳴り、恐怖で体を強張らした。

 声を上げようとしたその瞬間、すべるようにジークは五十嵐ミカに近づき、ワードローブで包み込むようにミカを腕で取り囲った。

 そしてミカの左の首筋を一かじりすると、ミカは小さく『うっ』という声を漏らした。

「安心しろ、私は吸血鬼ではない。ただ君の協力が欲しくて、体に少し細工させてもらったよ。何も心配することはない。君が思うままにトイラに復讐すればいいだけさ。これを使うとさらに効果的だ。君はとても強い力を手にしたんだよ。フフフ」

 ジークはそういい残して、ミカに何かを渡すと、コウモリに変身してさっさと空に戻っていった。

 ミカはその場で、立ったまま意識が飛んでいたが、また正気に戻ると何もなかったように帰路に就いた。

 手にはしっかりとジークから渡されたものが握られ、首筋にはジークがつけた牙の後が2つ残っていた。