「トイラ、本当はユキを助ける方法をすでに知ってるんじゃないのか。わざと知らないフリをして、ユキの命の玉を取ろうと思ってるんじゃないだろうな」

 これを聞いてトイラは怒り狂った。

 今にも噛みつかんばかりに歯を見せ、赤いペンキをかけたように激怒している。

 今にも飛び掛りそうに仁を睨みつけた。

「どれだけ、ユキを救いたいと俺が思っているか、お前にはわかるはずがない。知っていたら、今すぐ助けている!」

 凄みを利かせて、トイラは野生の本能のまま、仁に逆上していた。

 仁はそこに黒豹を重ねてみてしまう。一瞬でも恐れを抱いた。

 トイラは興奮しきって肩が上下に激しく揺れていた。

「まあまあ、二人とも、落ち着け。結局はどっちもユキが心配で、助けたいって必死なだけだ。とにかく、仁、頼む。僕たちに協力してくれ」

 一番冷静なキースはこの場をなんとか丸く収めようとしていた。

 仁は完全に納得できないでいる。

「僕は一体何をしたらいいんだ」

 ユキの事を考えたら他に選択はないように思えた。

「仁、ありがとう。トイラとキースのこと理解してくれるだけで、私は嬉しい」

 ユキが喜んでいる。

 その顔が見られないまま、仁はうつむいてじっとしていた。

 話が全て終わったときにはすっかり日がくれていた。

 心配するユキに見送られながら、仁は暗い夜道を物憂いに歩いて帰った。

 ユキを救いたいと思っても、あの話を聞く限り、人間である自分には到底かなわない。

 しかし、好きな人の命に関わる問題を、みすみす放っておける訳がない。

「一体僕に何ができる」

 トイラの顔を思い出すと、無性に腹が立って足元に落ちていた小石を思いっきり蹴り上げていた。