息を切らして、トイラのお気に入りの木に向かってユキが森の中を駆けている。

 一刻も早くトイラに会わなければならない。

 冷たい空気に晒された白い息が激しい。

 いつものように木の下でトイラは腰を掛けくつろいでいた。血相を変えて走ってくるユキが視界に入り、ゆっくりと立ち上がった。

「どうした、ユキ、そんなに慌てて」

 ユキは感情が先走ってトイラにしがみついた。

「私、もうすぐ日本に帰ることになったの。もうここには来れない」

 その突然の知らせはトイラの頭の中を真っ白にした。

 ユキがこんなにも早く自分の前から姿を消す。

 トイラには到底落ち着いて考えられる状態じゃなかった。

「トイラ、私どうしよう。あなたから離れるなんて辛すぎる。私、絶対嫌だわ」

 この時、トイラの頭にはもう森の守り主の太陽の玉のことしかなかった。

 あれがあればユキはいつまでも自分の傍にいられる。

 それしか方法が考えられなかっ た。

「ユキ、もしお前が望むなら、俺と一緒にずっとこの森で暮らさないか。ユキの住んでいる世界を捨てることができるか?」

 ユキは躊躇わなかった。

 自分の居場所はこの森の中、そしてトイラの傍。

 それしか考えていなかった。

「うん。私トイラと一緒にずっといたい。同じ時を過ごしたい」
 その答えを聞くや否や、トイラはユキの手を引いてジークを探し出した。