「遠慮することないよ。いつものことなんだ」

 仁が母親のフォローをしていた。

 本当は母親がユキを気に入ったことが嬉しくて、つい母親の肩を持つ言葉が出た。

「えっ、いいんですか。嬉しい」

 素直にユキは喜んだ。

「それじゃ善は急げね、ユキちゃん上着脱いで」

 どこから出したのか、母親はもうメジャーを持っていた。

 目が光り、ピーンとメジャーを張ってニヤリとしている。

 極道の妻のような気迫をユキは感じて、少したじろいだ。

 仁も母のその行動が恥ずかしく、見てみないフリをしてうつむいてお茶を飲んでいた。

 ユキは制服の上着を脱いで、そのときハッとした。

 同時に仁の母親もあっと声を出して、口を押さえていた。

「ユキちゃん、シャツが……」

 体育の授業のあとにシャツを切られてしまっていたが、着ているうちにユキはすっかり忘れていた。

 思い出すなりユキは動揺した。

「仁、ちょっと席外して」

 瞬時に把握した母親は、もたついている仁を押しのけて追い出した。

 仁は仕方なく部屋の外へ追いやられ、ドアを挟んで許可が下りるまで廊下に立っていた。