仁の家は駅からさほど遠くないマンションの一角にあった。

 ユキの家の周辺は田んぼや畑が多いが、賑やかな場所なだけあって、この辺りは住宅が密集している。

 道路を挟んで向かいにはコンビニがあり、雑居ビルや飲食店など目に入った。

 バス停もあり、ちょうどバスが走っていったところだった。

 マンションのエントランスに入り、エレベーターに乗る。

 降りたとき、見通しよくユキの住んでいる辺りの畑の景色が通路から見えた。

「母さん、ただいま。昨日言ってた春日さんを連れてきたよ」

 玄関を開けるなり仁は、母親に呼びかけた。

 スリッパのパタパタする音が聞こえたかと思うと、上品な笑顔で仁の母親が現れた。

 髪をアップにあげて、赤い口紅が印象的だった。

 仁によく似て、かわいらしい母親だった。

「あっ、いらっしゃい。さあさ、あがって」

 テンション高く、ユキを歓迎する。

「初めまして、春日ユキといいます。どうもお邪魔します」

 少し緊張して挨拶をした。

 仁は照れくさいのか、母親の大げさな喜び方を少し恥じていた。

 パッチワークのウサギのぬいぐるみが、玄関の下駄箱の上にかわいらしくちょこんと座っていた。

 なんとなくカントリー風のイメージがした。