たくさんのアリが餌を運んでいくように、トイラとキースも女子生徒たちにそうされてあっという間に教室を出て行ってしまった。

 ユキは呆気に取られて呆然と机についたまま考え込んだ。

  ──トイラは何を言おうとしたんだろう。

 ユキは何かの慣用句かと思い、辞書を出して調べてみたがわからなかった。

「春日さん! 放課後も学校に残って勉強?」

 教室の入り口で仁が叫んだ。

「ううん、まさか」

 ユキは立ち上がり、仁に近寄った。

「ねぇ、今からちょっと僕に付き合ってくれない?」

 はにかんだ仁。断らないでと目がウルウルしている。

 トイラが行ってしまった寂しさもあったが、前日の買い物の恩もあり、ユキは快く返事して仁についていった。

 肩を並べて人通りの多い歩道を歩く。
 時折り顔を合わせれば意味もなく笑うけど、少し慣れてきたのか、仁は前日ほど緊張してなかった。

「実は昨日、母に君の話をしたんだ。そしたら会ってみたいって。母も昔アメリカにちょっとだけ行った事があったみたいで、興味があって話が聞きたいんだって。迷惑かな」

「ううん、全然迷惑じゃないよ。私も新田君のお母さんに会ってみたい。私さ、早くに母を亡くしてるから、いつも他人のお母さんから母の面影を思い浮かべるの。そうやって誘って貰えて嬉しい」

「えっ、知らなかったよ。苦労してるんだね」

 仁はしんみりとして、うつむいた。

「そんなに気にすることないよ。でも新田君優しいんだね」

 ユキに言われて仁は素直に照れていた。