別にきみじゃなくてもよかった。


このむしゃくしゃする気持ちを一瞬でも忘れることができれば。

私のことなんて心に留めずに、ただただ、あの夜を一緒に過ごしてくれる人なら、誰でもよかった。




――ブーブーブー。

枕元でスマホが鳴っていた。
 

二年以上使っているスマホはことあるごとに不具合を起こして、画面に表示されてる電池は私の心のバロメーターみたいに減るのが早い。

なのに、こうして設定したアラームだけはしっかりと起動して、私を憂鬱な朝へと導く。



ゆっくりと起こした身体は、まるで鉛が付いているかのように重かった。
 

私の部屋はこの家では一番日が当たらない場所。夏は蒸し暑く、冬は湿気だらけのこの部屋を使うようになってから、もうすぐ六年になる。
 


部屋着から制服に着替えた私は一階のリビングへと向かった。

すでに朝ごはんのいい香りが漂っていたけれど、朝食を食べない私のぶんは用意されていない。



……ガチャッ。


立て付けの悪いドアは勢いよく開けなくても音がする。ダイニングテーブルに座っていた三人と目が合い、私は小さく「おはようございます」と呟いた。